信州の風土に根付いた漬物作り
地元産のお米で炊いたあったかご飯に、自家製の漬物とおみそ汁。
地域の風土に根付いた手づくりの味は、素朴でありながらも格別です。
戸狩の宿では、信州ならではの漬物作りを体験できます。
長野といえば全国でも有数の漬物県。冬の寒さが厳しいことから、古くから保存食として野菜や山菜、きのこなどを塩やみそで漬けて発酵させる「漬物文化」が発達してきました。漬物は保存が利くだけでなく、時間をかけて発酵することで風味が増し、味わいが深くなります。また、漬物に含まれる乳酸菌やミネラルなどの栄養は健康に欠かせないものです。食材の保存技術が進んだ現在では、漬物を作る家庭は少なくなったものの、四季を通じて多彩な漬物が食卓に並びます。地域によっても特色があり、素材や作り方はさまざま。それらは各家庭で代々引き継がれてきた自慢の味です。長野県の漬物としては、北信地域の「野沢菜漬け」や木曽地域の「すんき漬け」、諏訪の「上野大根のたくあん漬」、安曇野の「わさび漬け」などが知られています。気候・風土で培われた漬物は、まさに長野県を代表する郷土食といえます。
豊かな自然と長い歴史を持つ戸狩でも古くから漬物文化が育まれてきました。宿や飲食店で食事をすると、必ずといってよいほど登場するのが「野沢菜漬け」です。戸狩は野沢菜漬けの発祥の地である野沢温泉村に近く、昔から各家庭では冬になると保存食として野沢菜を漬けてきました。その歴史は古く、起源は江戸時代にあるとされています。1756年に野沢温泉村の住職が京都から天王寺かぶという品種を持ち帰って植えたところ、高冷地の気候風土により突然変異を起こして葉と茎だけが大きくなり、これが野沢菜になったと言い伝えられています。野沢菜を塩で漬けた野沢菜漬けは、おかずとしてだけでなくお茶請けとしても定番で、農作業の合間に取る「おこひる」(おやつ)には欠かせない一品です。地元では「お菜漬け」とも呼ばれ地域の人々に親しまれています。
野沢菜漬け作りは晩秋の風物詩。戸狩では霜が降りる11月頃になると、「もうお菜漬けた?」という会話がまるであいさつのように交わされます。この時期に収穫するのは、葉が霜に当たると甘くやわらかくなるためです。野沢菜漬けの作り方はとてもシンプルですが、各家庭によって使う材料は微妙に異なり、味の違いにその家の個性が表れます。基本的な材料は、野沢菜と塩。これにお好みで、唐辛子、こんぶ、柿の皮、しょう油、砂糖、酢、酒などを加えます。
戸狩の宿では漬物名人の手ほどきを受けながら、野沢菜の収穫や野沢菜漬け作りを体験できます。まずは野沢菜の収穫から。少し株の部分を残して、包丁で野沢菜の根元を切り落とします。これを水で洗い、葉に付いた土や汚れを落とします。大きな株には、茎の断面に包丁で十字に切り込みを入れます。これは浸かり具合を均一にするための工夫です。底に塩を敷いた容器に野沢菜を入れ、さらに塩をまんべんなくまぶしながら重ねていきます。野沢菜の水分を出すために上に重石を乗せて容器にふたをします。寝かせること約2週間で出来上がり。これをさらに寝かせておくと、乳酸発酵が進み味わいが深くなります。
お店で食べたりお土産として買って帰ったりするのも良いですが、自分で作った漬物の味はきっと格別です。旅の思い出に、信州ならではの漬物作りをぜひ体験してみてはいかがでしょうか。