自然を愛で、動植物を身近に感じ 地域文化を知る
斑尾山から天水山を走る関田峠のほぼ尾根上を歩く「信越トレイル」。
全長110kmのルートは、歩きやすいよう10のセクションに分かれており、飯山市内の各宿泊施設からは送迎システムも整っています。
戸狩民宿エリアからの最寄りはセクション3と4にあたるルート。いずれも美しいブナ林を通り、ミズバショウやカタクリ、リュウキンカ、イワカガミなどの花々を愛で、さまざまな生物の息吹を感じながら歩くことができる自然豊かなルートです。高低差も比較的少なく、自然を体感し、かつての歴史や文化に思いを馳せながらのんびり歩くのに最適なコースとなっています。
涌井(R292)から富倉峠、黒岩山、桂池を経由して仏ヶ峰への登山口までの12.7kmがセクション3にあたるコース。涌井の登山口は国道に接しているのでアクセスもしやすく、距離の割には高低差も少なく、道幅も広いため、トレッキングに向いた歩きやすいコースです。平均コースタイムは6時間ほどで、コースの7割は林道が続くため、植物を愛でながらゆっくりあるくことがおすすめです。
涌井から少し急な斜面を登ると富倉峠に到着します。この富倉峠は、信越トレイル上の16の峠のなかで、かつて最も人の往来があった峠。北信濃と越後を結ぶ交通交易の重要なルートで、戦国時代には、川中島の戦いで上杉謙信が越後から兵を率いて信濃に進軍する際、主要路のひとつとして利用されました。峠の近くには上杉軍が陣を張った場所といわれる大将陣跡を見ることができます。また、峠付近の富倉地区に伝わる笹寿司は「謙信寿司」とも呼ばれる郷土料理で、上杉軍に土地の人が笹の葉に味噌漬けをのせた飯をふるまったのが起源といわれています。
江戸時代には塩・魚・酒などの移入路となり、内陸と日本海を結ぶ大動脈でした。しかし、明治10(1877)年に、富倉峠の西側に涌井峠が開削され、昭和40年代(1965年?)には国道292号線が通じ、新しい富倉街道ができて、近代以降はひっそりとした古道となっています。峠には盛んに往来が見られた頃の石垣が残っており、かつての隆盛が偲ばれます。
富倉峠から農業用のため池であるソブの池を通り、美しいブナの林が広がる尾根を登りつめると、小さな東屋のある黒岩山の頂上に到着します。この東屋は、通称「のろし台」と呼ばれ、上杉謙信が戦の合図としてのろしを上げた場所であり、飯山盆地が一望できる素晴らしい展望です。また、この登山道の途中の鷹落山にはハンググライダーのテイクオフ基地があり、かつては物見の場所として知られていました。 また、黒岩山は島崎藤村の「千曲川のスケッチ」にも登場する自然豊かな山で、ギフチョウとヒメギフチョウの混生地として、山全体が国の天然記念物に指定されています。4月下旬から5月上旬には、赤紫色のカタクリの花が一面に咲き乱れ、この地に春の訪れを告げます。またイワカガミやチゴユリ、キヌガサウ、オオカメノキなどの可憐な花々を見ることもできます。また、雨や霧の日には、一瞬落ち葉のようにも見えるヤマナメクジも多く見られます。 さらに、黒岩山の断層からは、旅人の腹痛を治したという伝説がある名水「腹薬清水」があります。真夏でも9℃と冷たく、そのまま飲用もできます。この豊かな伏流水に恵まれた麓の信濃平は、飯山屈指の米どころ、野菜どころとして知られています。
黒岩山から1時間20分ほどで、平丸峠のある桂池へ。釣り人の姿も見られるほどの大きな池で、春先にはショウジョウバカマなどが目につくようになります。この周辺には雪解け後にミズバショウが咲く「太郎清水」もあります。
平丸峠からは中古池の左岸を抜け、北古池湿原の右側の林道を歩くと、少し開けた場所に出て、信越トレイルの案内板が見えます。ここから先は国有林内。スギの林が続き、途中数カ所の小川を渡った先のT字路は、信越トレイルと戸狩トレイルの分岐になり、信越トレイルは左に進路を取ります。ゴール地点の仏ヶ峰登山口は戸狩温泉スキー場でもあり、到着した途端、飯山盆地の展望が一気に広がり、正面に野沢温泉の温泉街と毛無山の優美な姿を望むことができます。仏ヶ峰登山口から砂利道を15分ほど下がると、とん平ゲレンデ駐車場があるので、クルマでのアクセスも可能です。
戸狩の民宿街から、このセクション3・4は非常にアクセスがしやすく、各民宿ではそれぞれにツアーやガイドのプランを用意しています。基本的には、トレイルの歩き方や歴史・文化を教えるガイドになりますが、予約時に「花を見たい」「写真をうまく撮りたい」といった希望を伝えたら、応えることも可能です。(場合によっては通常のガイドになる場合もありますので、詳細は各民宿までお問い合わせください。